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最近の装丁仕事:アフリカ音楽の正体

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ワールド・ミュージック、という言葉があたらしかった、世紀の変わり目のころ、
特にマリ、ギニア、セネガルといった西アフリカからの音楽に、僕はどきどきしながら接していたのを思います。
あるいはそういうアーティスト、というのでなくコンゴのイトゥリ・ピグミーのうたのフィールド録音が神秘的で、ときどき森に入りたい、みたいなときにじっと聴いていたり。それはエイモス・チュツオーラの書く不思議な物語ともまじったような、頭の中の森、を思います。
そうしてこの20年の間、激動したアフリカの現実世界を、思います。

音楽関係の装丁仕事を、もう一冊。
これは今月10日、発行されたばかりの
塚田健一・著「アフリカ音楽の正体」。

最初依頼のメールをみて「正体」は「招待」の変換間違い?と思ったけど、ただしく、正体。
まえがきには、何らかの形でアフリカが、あるいはアフリカ音楽が気になっている方へ、その関心を「さらに二歩、三歩、とアフリカ大陸に引き寄せることをもくろんで書かれたものだ」とあります。

考えて、カバーには、ドラムを叩く指先をクロースアップして、土壌と熱気そして波動を感じる、重層的なイメージをつくりたいと思いました。
視覚的にはざらざらしたテクスチャーだけど、手に取るとマットPPが滑らか、というちょっと不思議な感覚。
身体に馴染む色彩と質感、を思った装丁は、うまくいった!と思える仕上がりです。

デザインの工程的には、ふだんオフセット4色刷を前提にした作業がほとんどなのですが、階調のある2色刷の場合の、4色とは異なるソフト上での原稿づくりの難点・課題と、単純にみえて奥深い2色刷の魅力と、両方、あらためて感じる仕事でした。

記述は多角的、読みはじめただけでもそうとう(音楽的な意味で)刺激的。
僕にはレベル高し!と思いながらすでに面白い、です。

目次を紹介します。

[理論編]
第一章 アフリカ・リズムの衝撃       
第二章 アフリカ・リズムの奥義        
第三章 アフリカに「ハーモニー」が響く    
第四章 アフリカの旋律をたぐる       
第五章 太鼓は話すことができるか    
第六章 子どもと遊びと音楽と        
[実践編]
第七章 アフリカの太鼓で合奏しよう

といった構成。興味あるかたは
音楽之友社サイトで「立ち読み」ができるのと、
http://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?code=135700

特設ページでは
著者によるフィールド録音のダイジェスト音源が試聴できます。これは面白いです。
http://www.ongakunotomo.co.jp/useful/africa/index.html


「アフリカ音楽の正体」塚田健一 著
定価2,592円(本体2,400円)
四六判・264頁
株式会社 音楽之友社

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書店の棚ではこんなふうにオビがついて。
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by ichirographics | 2016-06-21 10:28 |

最近の装丁仕事:民族音楽学12の視点

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このところ、音楽の本の装丁仕事が続いていました。
装丁もいろんなケースがあって、この本はカバーが1色or2色刷にPP加工、という仕様、本文の用紙・レイアウト等が出版社の方であらかた決まっているパターン。
僕が依頼されたのはカバー(英語だと「表紙」とおなじになってしまうので原稿のファイル名はjacketにするんだけど依然呼称はカバーですね)のデザイン案、そして方向性が決まったらそれに沿って仕上げ、表紙、本扉と章扉もデザイン、そして見返し用紙の選定。

本が出来上がって、音楽の友だちにも紹介したい内容です、と言ったら
ぜひ、ということなので、これは書名が出せる仕事。

「民族音楽学12の視点」徳丸吉彦 監修・増野亜子 編
”人間と音楽について考える「民族音楽学」の入門書。専門的な音楽の経験がなくても、音楽への知的な好奇心がある人に向けて編まれた。「民族」という語がついてはいるものの、民族音楽学は遠い異国の音楽だけを扱うものではなく、あらゆる音楽を扱う。”
15年ぶりに出る民族音楽学のテキストとあって、気鋭の若手研究者らによるさまざまな論考が編まれています。
僕としては音・声・ことば、や越境・ディアスポラ、がまず関心あったところ。

テーマが多岐に亘って、また各項で語られる論者自身の音楽との出会いがいろんな驚きにみちているので、読んでいてクラクラします。
いちおう民族音楽学という学問の教科書、でも教科書的ではない。
目次を紹介してみますね。

[本書の内容]
響きと身体
 1 音楽と身体
 2 音楽と舞踊
 3 聴こえるものと見えるもの
 4 音・声・ことば

伝承と政策
 5 伝統芸能の伝承——個人にとっての芸の伝承
 6 無形文化遺産としての音楽
 7 無形文化財と韓国の伝統音楽
社会の中の音楽
 8 マイノリティ
 9 越境・ディアスポラ
 10 ローカルとグローバル、アイデンティティ
 11 グローバル化と著作権問題

総括
 12 民族音楽学への流れ

といった内容。ご興味あるかたは、
音楽之友社サイトで「立ち読み」ができます。
http://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?code=135100

並製・B5判・192ページ
定価2,700円(本体2,500円)
株式会社 音楽之友社

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by ichirographics | 2016-06-16 12:17 |

白い紙の束に

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最初に想像するのは白い紙の束。
そこに思念が行を成し、陰影がにじむ記憶が図版となる。

白い束をおおう表紙に海、を考え、
角背に光沢ある紺クロスを貼って大海原を託した。
さらにそれを包むものとして空気をふくんでやわらかく白い紙で函をつくる。
大気の外函、海の表紙。それに紺のスピン、明るい青の花切れ。水色の見返し。
半透明の紙に湧きあがる気泡の図像を刷って別丁扉とし、本文へ導く。
これで、この本は船のように出航することができるだろう…

このイメージが夏にできて、あとはそれに従って
こつこつ、構成していったんだった。

本は子どものころから貪るように、目に捉えた文字の形や絵のかたまりが
頭に沁みこむまで、感覚ぜんぶをつかって、読むものでした。
美術学校を出たあと、イラストレーターのスタジオを経て
20歳すぎに勤めた会社の、業務のひとつが
大型本や企業の社史といった書籍をデザインする仕事。

読む側の気持ちで本をつくるのは難しいことではなかった。
むしろめっぽう楽しい仕事。

・・・ということで何十年後の現在にいたるまで、
僕の事務所の業務のひとつの分野としてブックデザインは続いています。

今は制作の工程が、すっかり個人のコンピュータのなかで完結してしまいます。
自在なようで、これが狭い、ある種閉じた世界だという気がずっと、しています。
見方が独善的になる、という反省も。

かつて文字組みのこと(緊張感、リズム!)は写植屋さんに、
写真(深み、あでやかさ)のことは製版屋さんに、というふうにして、
それぞれの分野のベテランで、気概あるおじさんたちに教わりました。

今回、組版はひとりで取り込まず、依頼したのが
一昨年知り合った、でもじつは30年以上前に、ある書籍を一緒に作ったことで
かかわりがあったことがわかった人たち。
なので、お互い、よう生き残ってはった!と涙の^^;再会をした人たちでした。

製本、製函のプロセスはもちろん専門のひとたちの手を経て、
それぞれのベテランにお願いできたことは良かった。
そのおかげで僕は著者の意図を生かしつつ、企業体の歩みが
有機体のように浮かびあがってくるかたちづくりに専念することができました。

ということで、装丁プランから、基本フォーマットづくりという僕の仕事では、
おなじみの鉛筆が活躍しました。

かつてやっていたことに戻る、というかまた巡ってくるんだな、と思います。
これはまた続いて、そしてまた巡っていきます。

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by ichirographics | 2016-06-12 14:42 |

本のお仕事

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最近、デザインを担当した書籍がふたつ、
いま書店の店頭に出ています。ひとつは

「フォルマシオン・ミュジカル 名曲で学ぶ音楽の基礎」。

Formation Musicale とは、名曲やよく知られた曲を題材にして、
音楽を多角的に捉え、高い音楽性や創造性を目指す
フランスの新しい学習方法、ということ。
この本は問題集になっていて、1と2合わせて30曲!が取り上げられています。

はじまりは、従来のソルフェージュの、堅苦しい、
無味乾燥な感じから脱却した新しい表紙デザインを。ということで
音楽のお勉強…には違いないけど
それが楽しくなる、発想が拡がるようなイメージでつくったのでした。

「フォルマシオン・ミュジカル 名曲で学ぶ音楽の基礎」1および2
舟橋 三十子:著 B5判 並製 音楽之友社
価格:(1)(2)どちらも¥ 2,268

日頃の仕事であるグラフィックデザインは、身に沿った、
肌合いを生かすやり方で、気持ちがとどくことをめざしていて
どんな分野のデザインであれ、そこに共感が生まれると、本当に楽しくなります。

地道な業務がほとんどで、その時々で、こんな仕事しています、というのも
基本的に守秘義務があることもあって、
なかなかこんな風に紹介することはないのですが
本の仕事は、やっぱり好きで、やっていきたいことです。
手に取れる、ってこともあるのかな。
でも事務所のある大阪には出版社じたい少なくて、必然的に東京へ
時々は行かないと。ってことになるかー、って思ったり。

もうひとつ、そんな大阪ならでは、の本の装丁もさせてもらいました。
情報には新書判とありますが、新書よりは少し大きくて、
著者のご希望で、近年あまり見ない、
ペンギンブックスと同じ版型の上製本。
片手にすっぽり収まるこの版型は、ぼくもなつかしくて
すきなウォーレン・オーツの本がこのサイズでした。

これは東京の書店には、出ないのかな…。
大阪では書店の平台で、頑張ってる姿をいま、見ます。
その一冊は

「たかじん波瀾万丈」
古川嘉一郎:著
新書判 上製 たる出版 1,296円(税込)

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by ichirographics | 2014-05-31 23:37 |

クリエイターEXPO、参加してきました!

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7/3(水)~5(金)、参加していたクリエイターEXPO東京が終了しました。
僕にとっては前日の設営に東京入りして
会期終了の翌日までのほぼ一週間、
このために堀江の事務所を空けたことになりますが
久しぶりに東京の空気を吸うのは良いもんでした。

東京ブックフェアを主体に電子出版EXPO、プロダクションEXPOなどと
同時開催されていたクリエイターEXPO東京の、
沢山のブースの中から僕のブースを選んで、
あるいはたまたま、お越しになった沢山の皆様、
本当にありがとうございました!心から感謝いたします。

見ず知らずの、多数のお客さんを前にして
いったいどんなことができるのか、どういうことになるのか
さっぱり予測がつかず不安もありましたが、
ふだんのままの考えに沿ったプレゼンテーションを展開し
exposeの文字どおり自分を曝すことで得られる反応から
自分の可能性を(まだ、いけそう!)感じることができたのは
いいことでした。

そして三日間、ともに過ごした近くのブースのデザイナーの方々。
僕ひとりでなくみんなと一緒にこのどきどきを乗り切ることができた、
という実感がありました。
みなさんそれぞれの分野において、驚くほどすばらしい仕事をされていて
本当にすぐれたデザイナーで、でも本当に気さくな、
息子への東京土産(笑)を一緒に考えてくれたり、いい方ばかりで
僕はもう、勝手に仲間、と呼ばせてもらいます(笑)。

最終日6時、蛍の光が流れて、思わずお疲れさん!と声をかけあうと
あちこちから拍手もきこえます。
早く片づけ終わったひとから別れを言い、握手をかわします。
パネルを剥ぎ取り、展示した作品資料をもとどおり梱包するのは
予測通り時間のかかることで、気がつけばブースのブロックは僕ひとり。
一番乗りして、去るのは最後、
...the first to come and the last to leave...
という、ジャクソン・ブラウンの昔の歌の文句みたいだな、と思いながら
がらんとしてゆく会場で荷物と格闘していました。

空調は切れて、解体チームの、イスをたたむ音、カートを転がす音や
ときおり怒号が飛び交う中、汗は止まらず、
でも、三日間で出会った人たちの顔が、目が、次から次へと浮かび
手応えの充実感が、疲労したからだにしみわたります。

そこへ段ボール箱をふたつ、かかえたひとが
あっ、まだおられたんですね!
彼女は僕のブースのちょうど裏側で、おなじ壁面を背に頑張っていた
北海道から参加のイラストレイター。
楽しかったね、とうなづきあい、どんな感触だった?ときくと
「どうしよう、きいた話がみんな動くと、えらいことになる!」
「僕も!」
さあどうなるでしょうか。それはこれからのこと。

翌日。
一日多く開催される国際ブックフェア最終日をゆっくり見ようと
こんどは客として、東京ビッグサイトを訪れました。
業者だけでなく一般客が入場できる二日目、土曜日とあって
ブックフェアはさすがに混雑していました。
僕はクリエイターEXPOの会期中はちゃんと見ることのできなかった
ことしのブックフェアのテーマ・日韓交流の展示を見て回りました。
ハングル文字の美しい出版物をひとつひとつ、手にとって見ます。
韓国の出版文化の最良の部分なんだろうなあ、と感じたり
とにかく近いのに、ほとんど知らない本の世界。

あるブースの、一連の本、写真を主体にした本の姿にひかれました。
お粥だったり、ガーデニングだったり、テーマごとに一冊の
たぶんシリーズのそれぞれが素敵で、とりわけ
ナムル料理の本に、写真に、レイアウトに、目を奪われます。
あんまり素敵で、美しい本ですね。とそこにおられた方に声をかけると
ありがとうございます。と、話をするうちに、彼女自身が、その本の
ブックデザインを手掛けた本人であることがわかります。
JIGYUNGというその出版社で、彼女は日本語を話せるという理由で
営業職でないのに出張することになったと。
一冊一冊、内容と、作ったときの話を聞かせてくれます。
まだ若い彼女は、日本語のデザインを勉強して、
将来は日本でも仕事をしたいとのこと。
日本に来て、デザインの現場の人と話せたのは初めてです、と
喜ばれると、ぜんぜん日本の現場を代表するわけでないけど、
なんだか僕もうれしくて、彼女に、
昨日まで、そこに、たくさん素敵なデザイン仲間がいたんですよ。
と言ったのでした。

素敵な出会いがまた、ひとつ。
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by ichirographics | 2013-07-08 02:15 | つながる

つつみかえ

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戴きものがありました。

お菓子の箱をつつんで
“きもち”をつつんで
ひとまず役目を終えた紙。

綺麗なあ… 紙をひろげて娘はため息
うちにやってきたこの紙
もっと触っていたいので

こんどは

宮部みゆきの「人質カノン」と「パーフェクト・ブルー」
それから「岩崎弥太郎と三菱四代」
そして古典と、数学βのノートを
つつみます。

紙を愛でる

そんな日曜の午後でした。
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by ichirographics | 2011-09-11 22:48 | つながる

2冊の本

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しばらくバタバタと緊迫が続いて(よくあることですが)余裕なく過ごしていました。
その間に、僕が装丁を担当した本が二冊、ほぼ同時に仕上がって届きました。

一冊は、源氏物語のカクテルブック。

・・・といってもちょっと内容が想像つかないですね。
京都・祇園四条「来洛座」のバーテンダー浅野徹氏が、
「源氏物語」五十四帖、そして主要登場人物のイメージを
オリジナルカクテルに作り上げました。

「ささは よもやま ゑひもせす
     ― 京都・祇園のバ-テンダ-がつくる、源氏物語カクテル」
浅野徹[著]/ たる出版

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それぞれのカクテルにはレシピ、カクテル言葉、プラス
物語を現代語に、それも著者独特の「砕けた」文体に訳した「ちょっとあらすじ」がつきます。
美しいカクテル写真は楠本夏彦氏の撮影。
そして、黒をベースにデザインしたこの本全体を包み込む着物は
上大迫博画伯が、このカバーのために制作した一枚物の絵。
(上大迫さんの個展に二月、伺ったときのことはここに書きました。)

源氏、祇園のバー… と、とても京都らしい
ジャンルをまたがった本が、きれいに出来ました。

・ ・ ・ ・ ・

もう一冊は法律の本。

「実務 刑事弁護と証拠法」
庭山英雄・荒木和男・合田勝義 [編著]/ 青林書院

…刑事事件に精通した執筆陣が、豊富な実地経験を基に、
裁判員制度における有効な弁護活動の方策について、
証拠調べを中心に分かりやすく解説する。効果的刑事弁護の実践指南書!

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…専門書です。

ビジュアルの核は、時間=時計、ターゲット…はひょっとして
容易にわかってもらえるものだろうか?
書名から連想されるコモン・イメージ(ダーティ・ハリーから部長刑事まで)も
手がかりにデザイン、
担当編集の方からは「引きしまった感じで,とても良い仕上がりになった」
とのメール、うれしいです。

ブログに書くのがすこし、遅れましたが(よくあることですが)
二冊。まだまだ、生まれたばかりの本です。
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by ichirographics | 2011-06-17 19:56 |

颯々とさやいで

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箱からとりだすとグラシン紙に包まれた布表紙の本。
何の変てつもない、といえば本当にふつうの
でもいま手に取るとそれが貴重に思えるふつうの本のすがた。

「言の葉さやげ*茨木のり子」(1975年 花神社)

著者自装。
若草色の布表紙に、見返しのひわ色がほんのりみどりに相まって、
花布も本文と同系のクリーム色との調和は
書名のもととなった古事記の

木の葉さやぎぬ 風ふかむとす

というイメージを受けとめる自然な設計だとおもう。

母親が話した東北弁への思いをつづった文章からはじまる
詩人の短文集は、ことばへのまっすぐな、
でもやさしい目線がいたるところに感じられる。

1975年発行といえば、僕のもっている同じ頃の布貼り上製本が、
変質した糊の茶色が浮き出し、
見返しもひきつれをおこしているのがあることと比べると、
これはいま工場から上がってきたと同じ。
よく丁寧に作られているということなのだろう。

「…最初から意義があり、神聖な仕事なんてものは一つたりとも思いつかない。…
…しかし一つの仕事を選び生涯を賭けたとき、…否定しがたく人間の仕事としか言いようのないものにぶつかることがある。それが何であれ、人の仕事、職業というものに価値を見、打たれる…」
これは谷川俊太郎の詩について書かれた文章から抜き出したもの。
人間の仕事。そう言える仕事を、すこしでも出来ているか。読んで、自問する。
やさしいけど、てごわい本。

あとがきに
「…ことばの悪葉、良葉ふくめて、もっともっと溌剌と、颯々とさやいでほしい」
という一節があって、僕は颯々ということばを知らなかった。
漢和辞典で引いてみると、「さつさつ 風のふきすぎる音」とあった。


風のなかで、詩人のことばとおなじように
しゃんと、立っている本。
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by ichirographics | 2011-04-02 17:56 |

16年

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天五中崎商店街。

古書店の、奥から店先へ、ゆっくりと
本の束を捧げ持つように、何度も往復しているおじいさん。
店開きのしたくだ。
その邪魔にならないように
ワゴンから川端康成、中の棚から大岡信をえらんで、500円。
奥のレジで払い終えて出るとちゅう、一冊の背に目がとまった。
ぼくが装丁した本だ。

手にとって、見返し、扉から本文の感じをゆっくり、久しぶりにたしかめる。
昔の自分だけど、いい感じでつくられている。

カバーもまだきれいで、天がかすかに汚れているくらい。
僕が出版社からもらったぶんはあまりないので、買おう。

レジに戻ってその一冊をさしだすと、
「それは珍しい本ですよ」と店主。
これは、出来あがったときに著者の藤本さんが、
僕の今までの本にない感じやな
と気に入ってくれたのだ。
「これは、僕が装丁した本なんです。むかし、若い頃に」
と僕が言って、扉裏のクレジットをふたりで見る。
ゆっくり、高齢の店主は言う。
「本は、巡りあわせ、って言いますよ。本との出会いはね」

通りに出て、袋からまた本を出す。
自分がレイアウトした奥付を、あらためる。
1995年1月6日発行。

16年経っての巡りあい。
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by ichirographics | 2011-01-29 20:35 | つながる

本の紙のおもてと向こうがわと

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休日の電車。

もぞもぞ、肘をぶつけられ

揺れながら化粧する女と

イヤホンから洩れ突きささるスネアの傍らで

読書すること



鳥の子色の紙の上とうらがわと

うつったことばの柔らかいこと。



*

大岡信詩集「水府 みえないまち」
(1981年 思潮社 / 装幀・吉岡実) を読みながら
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by ichirographics | 2011-01-10 14:09 |