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颯々とさやいで

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箱からとりだすとグラシン紙に包まれた布表紙の本。
何の変てつもない、といえば本当にふつうの
でもいま手に取るとそれが貴重に思えるふつうの本のすがた。

「言の葉さやげ*茨木のり子」(1975年 花神社)

著者自装。
若草色の布表紙に、見返しのひわ色がほんのりみどりに相まって、
花布も本文と同系のクリーム色との調和は
書名のもととなった古事記の

木の葉さやぎぬ 風ふかむとす

というイメージを受けとめる自然な設計だとおもう。

母親が話した東北弁への思いをつづった文章からはじまる
詩人の短文集は、ことばへのまっすぐな、
でもやさしい目線がいたるところに感じられる。

1975年発行といえば、僕のもっている同じ頃の布貼り上製本が、
変質した糊の茶色が浮き出し、
見返しもひきつれをおこしているのがあることと比べると、
これはいま工場から上がってきたと同じ。
よく丁寧に作られているということなのだろう。

「…最初から意義があり、神聖な仕事なんてものは一つたりとも思いつかない。…
…しかし一つの仕事を選び生涯を賭けたとき、…否定しがたく人間の仕事としか言いようのないものにぶつかることがある。それが何であれ、人の仕事、職業というものに価値を見、打たれる…」
これは谷川俊太郎の詩について書かれた文章から抜き出したもの。
人間の仕事。そう言える仕事を、すこしでも出来ているか。読んで、自問する。
やさしいけど、てごわい本。

あとがきに
「…ことばの悪葉、良葉ふくめて、もっともっと溌剌と、颯々とさやいでほしい」
という一節があって、僕は颯々ということばを知らなかった。
漢和辞典で引いてみると、「さつさつ 風のふきすぎる音」とあった。


風のなかで、詩人のことばとおなじように
しゃんと、立っている本。
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by ichirographics | 2011-04-02 17:56 |