紋を描くひと

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すぐれて美しい図像として紋を見ることはあっても、基本を知ることはなかった。
家紋の本を、資料としては持っているけど、紋付を持ってはいない。
どころか着物を持っていない。そういう環境にいないので、
たまに仕事の必要が紋を「かする」ことがあったら、
途方に暮れないまでもお勉強、と身構えるところがありました。

「家紋の話 -上絵師が語る紋章の美-」(泡坂妻夫・著 新潮選書 1997年)を読みました。

著者は代々続く紋章上絵師。
掲載されている図版は2000点以上ですが、たんに分類~羅列の編集ではない、
紋を描く立場から語られているのが、独自でした。紋が、生きている。
印象的だったところを抜き書き。

「紋は基本形より、そのバリエーションに人気が集まることが少なくありません。」

「…この丸に五三の桐も…(中略)…形の取り方で紋章絵師の個性が現れる、描き方の難しい紋です。」

作図法も書かれていて、読んでいくと
「浮線稜の丸は、円の中に花や蝶を左右対称に配した美しい文様」
「紋を囲む輪は、その太さが直径の九分の一より、やや太めのものを『丸』といいます」
あるいは「丸の次に大切なのは、中心に描かれる小さな円です。」
と、円、輪、丸、が使い分けられていて、僕はそれらの違いに興味があったので
(じつは子供に違いをきかれてうまく答えられなかったので)
とらえ方の、ちょっとヒントをもらった感じ。
描くひとは、紋のかんどころを、そのイメージの内側から捉えて新鮮です。

ところで著者は、有名な、そして多作なミステリ作家で、紋をモチーフにした作品もある。
また奇術師でもあった、という行き方。
固く身構えない、自由な行き方に見えて、
このひとがいたと思うのは、うれしい。力を得ることです。

もうひとつ、抜き書き。「三つ追い」という紋についての文章から。
「三つが円状に追っています。同じ円の上を追っていると誰が追っているのか誰が逃げていくのか判らなくなります。チェスタートンの探偵小説にこの状態をトリックにした名作があり、三つ追いの紋を見るとそれを思い出します。」
…こんな自由な連想と描写が、紋章の本にあった?

伝統については、敬遠気味でしたが、
かたく構えず、たんに古いものが自然にいいな、というふうに
興味が向かうと、すこしずつ、身近なところから見えてくる気もします。

写真は、きのうの午後の本町。
御堂筋側には張子の虎、通りには提灯が飾られた門が、先週から立てられていました。
門の上部の幕に染め抜かれているのは三つ巴の紋と、薬の字の紋。
くすりの町、道修町の神農祭です。きょう22日と23日。
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by ichirographics | 2011-11-22 08:38 | 視覚

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