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16年

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天五中崎商店街。

古書店の、奥から店先へ、ゆっくりと
本の束を捧げ持つように、何度も往復しているおじいさん。
店開きのしたくだ。
その邪魔にならないように
ワゴンから川端康成、中の棚から大岡信をえらんで、500円。
奥のレジで払い終えて出るとちゅう、一冊の背に目がとまった。
ぼくが装丁した本だ。

手にとって、見返し、扉から本文の感じをゆっくり、久しぶりにたしかめる。
昔の自分だけど、いい感じでつくられている。

カバーもまだきれいで、天がかすかに汚れているくらい。
僕が出版社からもらったぶんはあまりないので、買おう。

レジに戻ってその一冊をさしだすと、
「それは珍しい本ですよ」と店主。
これは、出来あがったときに著者の藤本さんが、
僕の今までの本にない感じやな
と気に入ってくれたのだ。
「これは、僕が装丁した本なんです。むかし、若い頃に」
と僕が言って、扉裏のクレジットをふたりで見る。
ゆっくり、高齢の店主は言う。
「本は、巡りあわせ、って言いますよ。本との出会いはね」

通りに出て、袋からまた本を出す。
自分がレイアウトした奥付を、あらためる。
1995年1月6日発行。

16年経っての巡りあい。

by ichirographics | 2011-01-29 20:35 | つながる

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